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大阪地方裁判所 平成5年(わ)2268号 判決

本店所在地

大阪府堺市旭ケ丘中町四丁一番一一号

新井工業株式会社

右代表者代表取締役

新井進こと朴志旭

国籍

韓国

住居

大阪府堺市旭ケ丘中町三丁二番八号

会社役員

新井進こと 朴志旭

一九四九年一月一五日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官熊谷保出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人新井工業株式会社を罰金一四〇〇万円に、被告人朴志旭を懲役一〇月にそれぞれ処する。

被告人朴志旭に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人新井工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、平成元年九月二七日に設立され、大阪府堺市旭ケ丘中町三丁二番八号(平成三年一月七日に大阪府堺市旭ケ丘中町四丁一番一一号に移転)に本店を置き、鋼構造物工事業等を目的とする資本金五〇〇万円(平成五年三月二〇日に一〇〇〇万円に変更)の株式会社であり、被告人新井進こと朴志旭(以下、「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括していた者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと考え、

第一  別紙修正損益計算書(一)記載のとおり、平成元年九月二七日から平成二年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が二四四三万〇〇二三円であったのに、架空の外注費を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成二年一〇月三一日、大阪府堺市南瓦町二番二〇号所在の所轄堺税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が九八万二八七四円で、これに対する法人税額が二七万一七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙税額計算書記載のとおり、被告会社の右事業年度の正規の法人税額八八七万八九〇〇円と右申告税額との差額八六〇万七二〇〇円を免れ、

第二  別紙修正損益計算書(二)記載のとおり、平成二年九月一日から、平成三年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が六三六九万九三六四円であったのに、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成三年一〇月三一日、前記所轄堺税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が七四二万二六六三円で、これに対する法人税額が二〇四万七七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙税額計算書記載のとおり、被告会社の右事業年度の正規の法人税額二三〇九万六七〇〇円と右申告税額との差額二一〇四万九〇〇〇円を免れ、

第三  別紙修正損益計算書(三)記載のとおり、平成三年九月一日から、平成四年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が八五六二万八四二九円であったのに、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成四年一一月二日、前記所轄堺税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が九一九万八二九五円で、これに対する法人税額が二六四万三六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙税額計算書記載のとおり、被告会社の右事業年度の正規の法人税額三一三〇万四九〇〇円と右申告税額との差額二八六六万一三〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(二七)

一  新井栄姫こと金栄姫の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(二一、二二)

一  立花義幸こと金瑾祚の大蔵事務官に対する質問てん末書(二三)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書六通(記録第二〇―一号(一〇)、記録第二〇―七号(一三)、記録第二〇―九号(一四)、記録第二〇―四号(一五)、記録第二〇―一〇号(一六)、記録第二〇―八号(一九)

一  登記官原田宗明各認証の法人登記簿謄本(三〇)、閉鎖役員欄用紙謄本二通(三一、三二)

一  大蔵事務官作成の「修正申告書写の提出について」と題する書面(八)

一  大蔵事務官作成の証明書(青色申告書提出の承認取消についてのもの)(七)

一  被告会社作成の証明書(三三)

一  検察事務官作成の捜査報告書(九)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二〇-一二号)(一八)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成二年一〇月三一日に申告した申告書写についてのもの)(四)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成元年九月二七日から平成二年八月三一日までのもの)(一)

判示第二及び第三の各事実について

一  東本聖根の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(二四、二五)

一  大蔵事務官作成の検察官調査書二通(記録第二〇-一一号(一七)、記録第二〇-一三号(二〇))

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二〇-二号)(一一)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年一〇月三一日に申告した申請書写についてのもの)(五)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成二年九月一日から平成三年八月三一日までのもの)(二)

判示第三の事実について

一  中村豊一こと金豊一の大蔵事務官に対する質問てん末書(二六)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二〇-三号)(一二)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成四年一一月二日に申請した申請書写についてのもの)(六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成三年九月一日から平成四年八月三一日までのもの)(三)

(法令の適用)

罰条 被告会社

判示各罪について、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項

被告人

判示各罪について、いずれも法人税法一五九条一項

刑種の選択 被告人の判示各罪について、いずれも所定刑中懲役刑を選択

併合罪の処理 被告会社

刑法四五条前段、四八条二項(判示各罪の罰金額を合算)

被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

主刑 被告会社を罰金一四〇〇万円、被告人を懲役一〇月

刑の執行猶予 刑法二五条一項(被告人に対し三年間猶予)

(量刑の理由)

本件は、鋼構造物工事業(鉄骨組立業)を営業目的とする被告会社の設立当初からの代表取締役で、業務全般を統括していた被告人において、被告会社の平成元年九月から平成四年八月までの三事業年度に合計一億七三七五万円余の所得がありながら、うち一億五六一五万円余の所得を秘匿して過少申告し、法人税合計五八三一万円余を脱税した犯行で、脱税額も少なくなく、ほ脱率も約九二パーセントと高率の事案である。そして、脱税の動機、方法は、受注先へのリベート資金の捻出と個人資産留保の目的で、主として外注費を架空計上する方法で多額の所得を秘匿したもので、その脱税所得の多くは被告人の個人資産として蓄積されていたことも認められ、動機においてとくに酌むべき点はなく、その所得の秘匿方法も悪質であって、被告会社及び被告人の刑責は軽くない。

しかし、他方、被告人は、事実関係を認めて、現在本件犯行を真剣に反省していると認められること、被告会社において、修正申告により本件ほ脱にかかる法人税については重加算税を除きすべて納付し、地方税等についても附帯税の一部を除き既に納付していること、また、本件摘発後、脱税の原因ともなった取引先へのリベートの支払をやめ、新しい税理士の指導のもと現金での支払を行なわないなど、その経理体制の改善にも努めていること、さらに、被告人にはこれまで交通事犯以外の前科はないことなど、被告会社及び被告人のためにそれぞれ量刑上しん酌すべき事情がある。

そこで、これら諸般の事情を考慮し、被告会社及び被告人をそれぞれ主文掲記の刑に処したうえ、被告人に対してはその懲役刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

修正損益計算書(一)

〈省略〉

修正損益計算書(二)

〈省略〉

修正損益計算書(三)

〈省略〉

別紙2

税額計算書

〈省略〉

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